この記事について
Googleが提唱するデザインスプリントは、5日間で課題発見からプロトタイプ検証までを行うフレームワークとして知られている。しかし、AI協業時代においては「プロトタイプ」で終わる必要はない。
本記事では、非エンジニア(元UXデザイナー)が5日間でiOSアプリをApp Storeリリースまで完遂した実践記録を元に、「Claude Code Sprint」という新しいフレームワークを解説する。
ポイント:
- コード0行で本番アプリをリリース
- 実働10時間でApp Store審査通過
- 要件定義からCI/CD構築まで全てClaude Codeに委譲
💡 本記事は@ktknd氏のX投稿を元に、方法論として再構成した記事です。
Claude Code Sprint とは
デザインスプリントとの違い
| 観点 | デザインスプリント | Claude Code Sprint |
|---|---|---|
| ゴール | プロトタイプで検証 | リリース可能なアプリ |
| 期間 | 5日間 | 5日間(実働10時間) |
| 成果物 | Figma/紙のモック | App Store公開アプリ |
| コード | 書かない | AIが全て書く |
| 人間の役割 | 全工程に関与 | ディレクションに集中 |
デザインスプリントは「アイデア検証」が目的だ。5日間でユーザーの反応を確認し、本格開発に進むか判断する。
Claude Code Sprint は一歩先に進む。 AIがコードを書き、設計書を作り、CI/CDを整備する。人間は「方向性の決定」と「品質判断」に集中する。
5日間の具体的ステップ
Day 1: 要件定義・コンセプト策定(1時間)
やること:
- 解決したい課題を言語化
- 最小限の機能を定義
- 技術選定の壁打ち
実例: 「家族アルバムアプリの2分制限が面倒」という課題から、「動画を2分ごとに自動分割するアプリ」を定義。
最初はWeb版(ffmpeg.wasm)で作ろうとしたが、iPhoneのSafariメモリ制限でクラッシュ。Claude Codeと壁打ちした結果、iOSネイティブ(AVFoundation)へPivotを決定。
💡 ポイント: AI時代は「作ってから判断」ができる。Web版を試して1時間でダメと判断し、ネイティブに転換。この速度感がClaude Code Sprintの強み。
Day 2: 初期構築(3時間)
やること:
- プロジェクト雛形の生成
- 基本機能の実装
- 動作確認
実例:
動画を2分ごとに分割するiOSアプリを作りたい。要件定義書を元に作って。
これだけの指示で、Claude Codeが以下を生成:
- SwiftUIでViewを構築
- AVFoundationで動画処理ロジックを実装
- Xcodeで動くプロジェクト一式
この時点での品質:
- iPhone 17 Pro Maxのサイズ未対応
- UIが使いづらい(タスク指向)
- 細かいバグ多数
でも動くものができた。Day 2のゴールは「完璧」ではなく「動く」。
Day 3: ブラッシュアップ(3時間)
やること:
- 専門知識のコンテキスト投入
- 設計の見直し
- UX改善
コンテキストドキュメント戦略:
Claudeに以下を指示:
HIGの観点を入れて、OOUIで設計し直したい。
Web Searchで文献を検索し、要点を.mdファイルにまとめてコンテキストとして保存して。
Claude Codeが自動で3つのドキュメントを生成:
HIG_GUIDELINES.md— Apple Human Interface Guidelinesの要点OOUI_DESIGN.md— オブジェクト指向UIの設計パターンSWIFTUI_PATTERNS.md— SwiftUIのベストプラクティス
これらをプロジェクト内に保存しておくと、Claudeが実装時に参照してくれる。
タスク指向 → OOUI への転換:
タスク指向: [分割する] → [動画を選ぶ]
OOUI: [動画を選ぶ] → [分割する / 共有する / 削除する]
UXデザイナーの視点で「この遷移は冗長」と判断し、画面統合を指示。Claude Codeがすぐに実装。
💡 ポイント: 専門知識(HIG、OOUI)をドキュメント化してClaude Codeに渡す。AIは「何を知っているか」でアウトプット品質が変わる。
Day 4: クリエイティブ(2時間)
やること:
- アプリアイコン生成
- カラーリング検証
- ビジュアルデザイン適用
アイコン生成:
アプリの実装内容と要件定義のドキュメントを元に、
ターゲットとなるユーザーに受け入れられるアプリアイコン用の画像生成プロンプトを書いて。
Claude Codeがプロンプトを生成 → 画像生成AI(Nano Banana Pro)で生成 → パステルカラーのかわいいアイコン完成。
カラーリング検証の工夫:
いきなりアプリに実装せず、HTMLモックで検証する戦略:
アイコンのカラーリングをアプリに適用した場合のイメージを
確認できるWebサイトを作って
Claude Codeが簡易HTMLページを生成。ボタン、カード、背景にカラーパレットを適用したモックアップで確認してから、アプリ本体に適用。
💡 ポイント: 「捨てやすいHTMLモック」でビジュアル検証してから本実装。手戻りリスクを最小化。
Day 5: リリース(1時間)
やること:
- リリース自動化のセットアップ
- App Store Connect設定
- 審査提出
Fastlaneによる自動化:
Fastlaneでリリース自動化をセットアップして
Claude Codeが設定ファイルを生成。以下のコマンドでリリース可能に:
fastlane beta # TestFlight配布
fastlane release # App Store提出
スクリーンショット自動生成、プライバシーポリシー、App Store掲載文もAI生成。
結果: 審査一発通過。App Storeで公開完了。
人間の役割は何か
Claude Code Sprintにおいて、人間は4つの役割に集中する:
1. 課題設定(What to solve)
「動画分割アプリが欲しい」という動機は人間から出てきた。AIは「何でも作れる」が、「何を作るべきか」は判断しない。
リアルな生活課題、市場ニーズ、ユーザーペインの発見は人間の仕事。
2. 方向転換(Pivot判断)
Web版 → iOSネイティブへの転換判断。「Safariのメモリ制限でクラッシュする」という事実を元に、人間が方向転換を決定。
AIは選択肢を提示するが、最終的なPivot判断は人間。
3. 品質基準の投入(What is good)
HIG・OOUIという専門フレームワークを指示したのは人間。「iOSアプリとしての品質」「使いやすいUI」の基準を持っているのはドメイン知識を持った人間。
4. 主観的評価(This is good / bad)
「この遷移は冗長」「ダークモードは後回し」「このアイコンがいい」—これらの判断は人間にしかできない。
実機を触って「手触り」を評価し、「これでいい / これは違う」を伝える。
Claude Code Sprint の適用範囲
向いているプロジェクト
- 個人開発のMVP — アイデア検証を超えて、実際にリリースまで持っていきたい
- シンプルなユーティリティアプリ — DB・認証なしで完結するもの
- プロトタイプの延長 — デザインスプリントで検証したアイデアを本番化
向いていないプロジェクト
- 大規模アーキテクチャ — 拡張性・保守性が重要なエンタープライズ
- セキュリティクリティカル — 金融、医療など専門レビューが必要
- チーム開発 — 複数人の協業が前提のプロジェクト
実践のためのチェックリスト
事前準備
- Claude Code(またはMax plan)のセットアップ
- Xcode / Android Studio など開発環境
- App Store / Play Store の開発者アカウント
- 解決したい課題の言語化
Day 1(要件定義)
- 課題を1文で言語化
- 最小機能を3つ以内に絞る
- 技術選定の壁打ち完了
Day 2(初期構築)
- 動くプロジェクトが生成された
- 実機で基本機能が動作確認できた
Day 3(ブラッシュアップ)
- 品質基準ドキュメント(HIG等)をClaude Codeに投入
- 設計見直し完了
- 主要なUX改善完了
Day 4(クリエイティブ)
- アプリアイコン確定
- カラーリング確定
- ビジュアルデザイン適用完了
Day 5(リリース)
- Fastlane(または手動)でリリース準備
- 審査提出
- 公開確認
まとめ: AIの最大価値は「スピード」
5日間(実働10時間)でiOSアプリをリリース。従来は不可能だった速度。
Claude Code Sprintの本質:
- 「プロトタイプ」ではなく「本物」ができる
- 人間は「ディレクション」に集中
- 専門知識をドキュメント化してAIに渡す
- 「捨てやすいモック」で検証してから本実装
「作れる」のハードルは確実に下がった。しかし「使われる」ためには、課題設定、ラストワンマイルのUI/UX、セキュリティ、集客など、依然として人間の専門性が必要。
AIと協業する時代、人間の価値は「何を作るか」「何が良いか」の判断にある。
参考リンク
- 元投稿: @ktknd氏のX投稿
- 完成アプリ: 2分に動画ちょっきん(App Store)
- Claude Code: プロダクト詳細ページ